認定ハンドセラピストの魅力
金沢大学 西村誠次
医療人としての『臨床の魅力』は、やはり患者様が治療に満足されることであり、時には患者様やご家族の『笑顔』をみるときです。また治療経過が順調なとき、予想外に良い結果となったとき、残念ながら思うような結果を得られず次に頑張ろうと奮起したとき、これら全てが臨床の魅力です。また個人的には患者様との和気あいあいとした会話から『人』として様々なことを学ぶことも臨床の面白みと考えています。
『研究の魅力』は、基礎・臨床研究ともに新しい知見を得たときの満足感、また国内外の学会発表で新たな活力を得たときの充実感などがあり、さらに共同研究で他分野・他職種の奥深さを知り、臨床・研究の可能性や『夢』を語り合うときなどは高揚感を覚えます。また国際面では他国の文化や人との関わりを通して、自分の知識や価値観、視野が広まる有意義な機会にもなりうります。
日本のハンドセラピィは、臨床・研究ともに手外科医とハンドセラピストの連携が深く、世界的にも高い水準の医療を提供しています。また国際学会は手外科医とハンドセラピストによる合同開催であり、学術・運営面においても充実しています。これらは国内外ともに先人達の努力によって築かれてきたものであり、今後も両者がコラボレーションして臨床と研究を推敲し継続することは、手外科診療の発展につながり、またその未来を築くための『礎』があることはハンドセラピィの魅力でもあります。
もり整形外科・リウマチ科クリニック 西出義明
ハンドセラピィと携わって25年以上になります。
「ハンドセラピィの魅力は?」と聞かれますとその答えについてはあまり考えていませんでした。手外科では「治療成績を決めるのは手術が50%、セラピィが50%」という言葉があります。その責任の重みを感じ、如何に目の前の患者さんの手を改善し、元の生活が出来るようになるのか、それに取り組むことで精一杯でした。
ハンドセラピィの魅力は、その責任の重さと共に、手外科の先生方や患者さんからの期待にお応えできるような結果になり、無事に社会なり、ご家庭なりに復帰された時の患者さんの笑顔をみせて頂けることです。また期間をおいてリハビリテーション室に顔を出し、近況を教えて頂いたりすることや、お手紙を送って下さったときに、この仕事に携わらせて頂いて良かったと思います。頂いたお手紙は一生の宝ものになります。
ある方についてお話します。右橈骨遠位端骨折後に保存療法にてオルソグラスで固定され、のちにCRPS(複合性局所疼痛症候群)を発症し、手関節のみならず手指の拘縮もきたした方が紹介で遠方から来られました。この方は他のリハビリテーションセンターで6か月間セラピィを受けられましたが、主治医より「これ以上、治らない。これで生活していってほしい。完治は難しい。」と説明を受けられたとのことでした。当院の整形外科医の先生から「痛みと手指の拘縮だけでもなんとかならないか?」と処方を頂きました。
当院では、交代浴、手関節および手指のmildな牽引、装具療法を行いました。遠方からでしたが、5か月間にわたり週2~3回通院して下さいました。5か月後は手関節・手指ともほぼ100%の可動域を獲得でき、握力も9kgであったものが21kg(健側22kg)と改善、痛みも消失し、その1か月後に終了となりました。
終了後1か月経って、その方から長いお手紙を頂きました。6か月前には、「手が痛くて辛かったこと、いつもこわばり、お箸やペンが持ちにくく力が入らなかったこと、洗いものでお茶碗をよく落としたこと、手をつけなかったこと、耳かきが上手くできなかったこと」などの苦しさが綴られ、「今は全て忘れるくらい良くなって溌剌とし、家族まで明るくなりました。」とありました。その文末には「病院に続く坂道が希望の光の坂道に見えました。」とも書かれていました。
過分なお言葉でした。その思いの深さにありがたく思い、涙がでそうでした。自分が思っている以上に苦しまれていたこと、手の改善が手のみならず様々なことに良い影響を与えることが再確認できました。
この文章の最後の「希望の光の坂道」になれるよう、少しでも期待にお応えできること、もしそのご期待に添えなくても次のステップに繋がるようにハンドセラピィを実践することが大切に思いました。
使えなくなった手をいかに生活できる手、仕事ができる手にするかがハンドセラピストの使命です。時には患者さんの人生をも左右するかもしれません。ハンドセラピストは患者さんの生活、ひいては人生を左右させる可能性がある中で、その責任を負いつつセラピィを実践し、患者さんの笑顔に結び付けることがハンドセラピィの魅力なのであろうと思います。